G-BLEDE GAIDEN INTERLUDE ROT STRAUβ |
―3―
<The First Part 3>
simulation
午後の視察が始まった。 メアリーは目の前に立つ鋼の巨人を見上げるようにしながら、よく人はこんなものを造り出せるものだと思った。 モビルスーツ――この半世紀あまりあらゆる戦争で使われてきた、巨大な人型の機動兵器。 今メアリーの前にある機体は、このセンターでの実験のために開発されたもので、サイコミュという特殊な機器が搭載されていた。 「サイコミュといってもこの機体に装備されているものは、ヴェクター財団が開発した新しいもので、昔からあったものとは違います」 トゥールソン所長の声が、高い格納庫の天井に響く。 「従来のものとは違うとおっしゃられましたが、具体的にはどこが違うのですか?」 「そうですね……。以前までのサイコミュ・システムはなんと申しますか……パイロットの思念を強制的に増大させてそれを機械的に受信させていたために、時には人の脳神経に深刻なダメージを与える傾向があったのです」 「そんなに危険なものなのですか?」 「あ、いえいえ。それはあくまで旧来のシステムのことで、この機体に搭載されているものとは違います。これに搭載されているものは、あくまでも人の発する微弱な電気パルスの傾向パターンをマシンのバイオ・コンピュータに記憶させて、それを機体操作のサポートに反映させるといったものです」 「以前のものと違って、よりソフトに造ってあるということですね?」 そのメアリーの言葉に、初老の所長は機嫌をよくしたようだ。 「そうです! この研究が進めば、将来的には何の訓練も受けていない者でも、自分の思うままに機体を動かすことができるようになります」 そう説明する所長の声はきびきびとしていて、自分たちの造っているものに対する自信がうかがえた。 「ではこちらへ……当研究所の優秀なパイロットを紹介します」 そうしてメアリーは格納庫に隣接したシミュレーションルームへと案内されていった。 無数の星が輝く宇宙の中を、一機の白い巨人が駆け抜けてゆく。 その巨人の前に、さらに別の巨人が次々と現れる。 まるで華麗なチェスゲームを見てるみたい――そう、メアリーは思った。 チェスの達人が相手の先の先を読み、盤上のすべてを意のままに操るがごとく、その白い機体の動きは空間のすべてを把握し、いっさいの無駄はない。 無数の銃弾の雨を、AMBAC(四肢の慣性を利用した姿勢制御)のひと動作でかわし、流れるような動きで、次の瞬間には相手の懐へと潜り込んでいる。 チェックメイト。 ひとつの閃光の華が開いたときには、すでにその姿は次の敵機の懐へと飛び込んでいた。 チェックメイト。 チェックメイト、チェックメイト、チェックメイト。 チェックメイト……。 「すごい……」 白い機体が宙を舞うたびに、華のような閃光が次々と咲いてゆく光景は、モニタースクリーンに映し出されたコンピュータ・グラフィクスと分かっていても綺麗で、メアリーは感嘆の息をもらした。 「これもその……ここで研究されている新しいサイコミュ・システムの成果なのですか?」 「いや、違います。このシミュレータは戦闘難度や戦術プログラムに若干改良をほどこしてありますが、あくまでノーマルなものでサイコミュ・プログラムは使われていません」 だとすれば、これはすべてパイロットの実力ということになる。驚嘆に値する能力だ。 「シミュレーション・プログラム終了。タイムは285.9secです」 スタッフがそう告げると同時に、メアリーもコンソールに表示されたデータを自分で読み取る。 撃墜数、20。 初弾命中率89.3% 被弾率にいたってはわずか0.1%! 被弾数はたったの1。 まさに神業としか言いようがない。 「一発被弾したようだが……どうかしたのかね?」 だからトゥールソン所長が、そのように管制室のマイクを使ってシミュレータに搭乗しているパイロットに呼びかけたことに、メアリーは思わず「えっ?」と声を上げてしまった。 「ああ……いつもは被弾率ゼロなんで、そのことを聞いているんですよ」 気のいいスタッフのひとりがそう説明してくれたが、メアリーはただ唖然とするばかりだ。 『かすっただけ……。その代わりタイムを10秒以上縮めたわ。問題ないはずよ……』 シミュレータ・マシンの通信機から、強気……というよりもやや不機嫌そうなパイロットの声が返ってくる。 「一発くらったとはいえ、自己ベストをさらりと更新ですか? いやはや……たとえ冗談でも、怒った彼女を敵にはしたくないもんですなァ……」 いつの間にかシュミレーションルームに入ってきたケイオスが、メアリーの隣に立ってのんびりとそんなことを言ってくる。 「彼女……今のパイロットは女性の方なんですか?」 「ええ……」 ケイオスは軽く頷きながら管制室の一角を顎でしゃくった。ケイオスの促した方に目を向けると、今しも無骨なシミュレータ・マシンから降りてくるパイロットの姿を透明なアクリル越しに見ることができた。 ずいぶんと小柄だ。女性……と表現するよりはむしろ少女? ふいにそのパイロットが、それまで被っていたインターフェイスを外した。 その青い瞳が彼女のことを見つめ返してきたとき、今度こそ本当にメアリーは言葉を失った。 「ご紹介します。彼女が新型機のテストを行ってもらう当研究所の優秀なパイロット、ラン・サインです」 トゥールソンの自慢げな声が管制室に響き渡る。 それは間違いなく、さっきメアリーがラウンジで出会った少女だった……。 |
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