G-BLEDE GAIDEN INTERLUDE ROT STRAUβ


―1―
<The First Part 1>

Center




 施設の中を案内されながら、メアリーは「ふう」と思わずため息をつきたくなった。

 しかし、そんなことをしてはいけないと危うく自制心を働かせ、何とかポーカーフェイスを保つ。

 そうしながらふと、目の前のここの職員だというこの男には、自分はどう見えているいるのだろうと考えた。

(きっと、世間知らずのお嬢さん――とでも思われているんでしょうね……)

 現に、ここに来る途中で彼女の対応をした別の職員などは、最初若すぎるメアリーが軍から派遣された特別監察官であると名乗ったとき、すぐには信用してくれなかった。

 メアリーは今年で二十七歳になるが、確かに若い。それにどうやら自分は実際よりも若く見られる性質らしいことも分かっている。

(やっぱり、こういう仕事はもっと貫禄のある高官の方が向いているのかしら……?)

 メアリーはあらためて何故自分が今回の査察に選ばれたのだろうと考えてみる……。

 能力だけで判断すれば、メアリーは連邦軍に所属する情報解析士官の中でも優秀な部類に入るはずだった。――いや。軍大学を首席で卒業していることや彼女の若さを考えるなら、同期はもちろん彼女より幾分歳かさの士官を含めても、高い能力を持っていると言えるだろう。

 軍大学を首席で卒業といっても彼女は学科の成績がよかっただけで、実技教練の成績はあくまで平凡だったし、軍に正式に入隊してから情報解析士官という道を選んだのも、彼女自身に自分はデスクワークの方が向いているという自覚があったからだ。

 しかし、そこに地球連邦軍という組織独特の構造があり、その中では優秀な兵士よりもデスクワークが得意な人間の方が出世しやすいという習慣があった。

 そういった意味ではメアリーなどは格好の人材であるようにみえるが、そこに組織の持つもうひとつの悪癖がある。

 メアリーの上官である歳かさの男たちからしてみれば、女性でありながら若く優秀な彼女の存在が不愉快に映ったらしいのだ。

 ユニバーサル・センチュリー(宇宙暦)もあと十数年で一世紀半になろうという時代に、男尊女卑などという言葉は化石に等しい――そう彼女自身考えてはいるが、それでも能力が高い人間が必ずしも益をもたらす人間とは限らない。

 優秀すぎる人間は、逆に将来自分たちの地位を揺るがす存在になりうると考えるのが、現在の地球連邦政府ひいては連邦軍なのである。

(結局は、やっかいばらいなのよね……)

 ようするに、彼女は上の人間から面倒な仕事を押しつけられただけなのだ。

 彼女の上官は、そうすれば自分たちはわざわざ視察のためにこんな研究施設へ足を運ぶようなことをしないで済むし、メアリーを現場に派遣することでもし何かヘマでもやってくれたらむしろ大歓迎だとでも考えているのだろう。

 メアリーがため息をつきたくなるのも当然といえる。

「――というのが当施設の……どうかしましたか? メアリー監察官……」

 と――思考の流れにメアリーの目線が宙を泳いでしまったのか、目の前の男がいったん説明を区切ってこちらを向いた。

「何でもありません。その……ケイオスさん? 話を続けてくださって結構です」

 メアリーは男の胸元についたネームカードを確認しながら、そう答えた。

「そうですか? それでは……え〜と、どこまで話しましたかな?」

「この施設では人の精神波とそれに連動するマシンの研究をしている……というところだったと思いますが?」

 メアリーが迷わず答えたことに、彼――ケイオスは「ほう」とわずかに驚きをあらわにした。

「いやはや、さすがは監察官殿といったところですか……?」

「いえ……わたしがあなたの話を、よく聴いていなかったと思っていらしましたか?」

「いや、そうではなくてですねェ……何か考え事をしていらっしゃるように見えたものですから……」

 ケイオスは途中で言葉を濁す。

「これでも今回の試験の正式な立会人ですからね?」

 多少のことで周囲に対する注意力が散漫になってしまうようでは、監察官失格である。この程度のことに軽く対応できない様では、メアリーの仕事は勤まらないのだ。

「ははは……そうですな。……いえね? 実のところ先ほどまでの説明はこの『センター』の来賓用プログラムに従って話をしていただけでして、自分の様な新参者には正直何がなんだかさっぱりなんですよ……?」

「そうなんですか?」

 メアリーはあらためてケイオスの顔を見た。

 無精ひげに覆われた何処か気だるそうな雰囲気は、いかにも研究所勤めという、外部から隔離された環境で暮らす者といった感じだった。

 しかし、何処か普通の研究員とは違うものを感じる。

 自分に向けられる視線でメアリーの疑問を察したのか、ケイオスが続けて説明する。

「いえね? 自分は昔、軍にいたことがあるんですよ。前の戦争でちょっと負傷してしまいまして…・・・それを機に退役したんですが、どうにも軍にいたせいか普通の職種には馴染めませんでね。それで昔のコネを使ってここのスタッフになったんですよ」

 そのケイオスの説明を聞いてメアリーは納得した。言われてみれば、一見軽そうな笑いを浮かべながら眼光は鋭く、身のこなしにも隙がない。

「まあ……そんな訳であなたとは同じ穴のムジナみたいなもんですよ」

 そう親しげな顔をみせるケイオスに、むしろメアリーは警戒心を強めた。

 そのような人間に彼女の案内をさせているということは、ヴェクター財団が今回の査察をあまり快く思っていないということだ。

 つまりケイオスは財団側の監視役であって、メアリーに機密に対する必要以上の干渉をさせないための見張り役なのだろう。

 メアリーは彼女を派遣した軍の上層部だけでなく、目の前にいるこのケイオスにもうかつな行動を見せる訳にはいかない。

 あらためて自分に与えられた監察官という役目の重さを実感し、彼女は緊張した。



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