G-BLEDE GAIDEN INTERLUDE ROT STRAUβ


間奏曲
<interlude A>

in U.C.0143




 紅の機体が、深緑の大地を疾駆する。


   *


 彼女の操る機体、スターク・ガンが空中に姿を現すと、案の定――森の中から数条の光が立て続けに襲ってきた。

 敵のビーム攻撃だ。

 自分を殺そうと襲い掛かってくる光の群れを、すべてかわしながら、彼女はそんな敵の行動をうかつだと思った。

 地上でのビームの有効射程は、以外に短い。

 宇宙とは違って大気がある地上では、ビームのメガ粒子は空気との摩擦によって激しく減退する。

 このくらいの距離ならば、モビルスーツの急所に直撃でもしなければ撃破は不可能だ。

 そう思考を巡らせながら、彼女は自嘲気味に薄く笑った。

 もちろん――だからといってそう簡単に当たってやる訳にはいかない。

 しびれを切らした一機が、機体をジャンプさせ森の中から飛び出した。長距離から狙撃しても当たらないことに気がついたのだろう。

 ―― 予定通りだ。

 彼女はいったん森の中に着地すると、すぐさま機体を跳躍させる。

 横ではなく、縦に――。

 スターク・ガンの脚部に装備された熱核スラスターが、全力でもって機体を重力の鎖から解き放つ。

 激しい加速Gの後の、一瞬の高揚感――。

 雲を越える様な高々度に身を躍らせること数瞬。今度は地表に向かって一気に加速をかける。

 上空から捉えた敵機は、彼女の姿を探して、地上に降り立ち周囲にカメラを巡らせている。

 その敵のカメラが彼女の姿を捉えるころには、すでにスターク・ガンは重力落下を利用した超加速によって瞬く間にその距離をつめていた。

 大気との摩擦が激しく機体を揺する中、慌てて銃を構える敵の姿が見える。今や全天周モニターいっぱいに森が迫り、その木々一本一本のディティールすら確認できる様になっていた。

 まるで地上に激突するかの様な、通常を遥かに超える速度で接近する機体の姿に、敵機の様子に変化が現れた――。

 その敵は彼女の無謀とも言える突撃に、激突を避けるために回避行動を取ったのだ。

 ――だが、それこそが彼女の狙いだった。

 地上に激突するか否か、まさにギリギリのタイミングで機体のスラスター及びアポジモーターをフル稼働させる。

 激しい衝撃波が周囲を揺さぶり、機体をかすめた木々が葉を舞い散らせるが、彼女の操る機体は地表すれすれで身を捻らせ、加速を維持したまま矢のごとく敵機を追い駆ける。

 目の前に捉えた敵機――リアライズの使用する量産級MSデル・Tの深い緑色の重厚なボディを追い越す瞬間、彼女はスターク・ガンの左マニュピュレーターに装備したビームサーベルがその敵の脚部を焼く確かな手応えを感じた。

 空中で両足を失った敵機が、バランスを崩し転げ落ちる様に森の中へ落ちてゆく。

 さらに彼女は地を滑る様に機体を着地させながら、後ろを振り向きざまにビームライフルを一射した。

 そのビームの筋は彼女の読み通り、僚機を援護するために接近していたもう一機のデル・Tを正確に貫いていた。

 もう一機――。

 残る敵小隊のモビルスーツの姿を目で追う。が、その敵は彼女が視界に捉えたときにはすでに、戦場を離脱し始めていた。

 その潔い逃げっぷりに多少の苦笑を漏らしなら、彼女は深追いせずにライフルを下げた。

 気がつけば太陽はとうに西へ傾き、夕闇が辺りを包み始めていた。

 ――戦いは終わったのだ。


   *


 宇宙世紀0143年。

 反地球連邦政府を唱える連邦軍将校たちは、自らを革命組織「リアライズ」と名乗り決起。

 瞬く間に各地の軍事施設を攻撃、武装占拠する。

 突如起こったこの反乱によって、軍内部は完全に分裂。

 上層部が混乱する中、反リアライズ派勢力は各地でリアライズ軍に粘り強く抵抗。

 ヨーロッパ方面に集結し、ここにリアライズ抵抗戦線が築かれていた――。


   *


 夕日が周囲の森を紅く染め上げる。

 その光景を、彼女は自機の胸部ハッチの上に立ち眺めていた。

 モビルスーツのメインエンジンを破壊する様なミスはしなかったから、その夕日の美しさを直に見ることができる。

 そうでなければ、放射能汚染が怖くて戦闘の後に外に出ることなどできない。

 しかし――今はこうして外の新鮮な空気を思い切り吸うことができる。

 戦闘で過熱した装甲が熱気を放つ中、夕闇が迫るディープ・ヨーロッパの森の風が彼女の方をなでた。

 その感覚を心地よく感じながら、彼女は沈み行く夕日に思いをはせる――。

 あの日――。

 あのときに見た夕日も、今と同じように紅く――綺麗だった。

 五年前のあの日、あのときに見た夕焼け――。


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