G-BLEDE GAIDEN INTERLUDE ROT STRAUβ


―5―
<The First Part 5>

party





 メアリーは悩んでいた。

 この研究所を訪れた日以来、彼女はあの少女――ランのことが気になっていた。

(まさか、あの娘がテストパイロットだったなんて……)

 確かに、ランのパイロットとしての素養は高い。

 これまでにもメアリーは、軍のパイロットによるシミュレレーション訓練や実機による訓練を見る機会はあったし、彼女自身も軍大学時代には教練でシミュレータに搭乗している。

 しかし、ランが見せたそれは、それらとは全くレベルの違うものだった。

 彼女の操るシミュレータ・マシンでの動きに比べれば、他のパイロットの動きなどは遥かに鈍重に思えてしまう……。

 それは訓練や経験などで身につくものではない――あきらかなセンスの差だろう。

 しかし――だからといって、彼女はまだ十歳あまりの女の子なのだ。

 けれど、メアリーに何ができると聞かれれば、何もできはしない。

 三日後に迫った連動試験は軍が認めた正式なものである。メアリーにはそれを中止することはできないし、パイロットの変更を要求するような権限も持たなかった。

「本人にも嫌われちゃってるしね……」

 そう独り言をつぶやきながら、メアリーはキーボードを打つ手を止める。

 彼女は今、施設滞在中に用意された自室で、これまで入手したデータの検討を行っていた。

 彼女自身、何故あの少女のことがこんなにも気になるのか不思議だった……。

 子どもを新型サイコミュの連動実験に参加させることに、良心の呵責を覚えた――というものだけではない気がする。

 気がかりなことは他にもあった。

 先日、メアリーはここの施設のメイン・コンピュータにアクセスする機会があった。

 そのときに彼女は、データの一部に外部から不正なアクセスを受けた痕跡らしきものを見つけたのだ。

「機密データの一部が漏洩している……」

 その目的は研究データだろう。何者かは知らないが、ここで行われている研究を自分のものにしようと考えている者がいるのだ。

 さらにその痕跡には外部からの進入を隠すように、あとからデータが改竄された形跡があった。メアリーがハッキングの件を発見できたのも、過去のデータの中に最近になって更新されているものがあることに気づいたからだ。

 それはつまり、ここの職員に内通者がいる可能性を意味する。

「嫌な感じね……」

 このことは、しばらく独自の調査が必要だと思った。しかも、もし本当に内通者が存在するとしたら、ことさら慎重に事を進めなくては……。

「どうしてこうも、気が重くなるようなことが続くのかしらね……」

 ため息をつきながら、部屋の片隅に目を向ける。

 そこには今夜、メアリーが着ることになるはずのパーティー・ドレスが掛けられている。

 試験日を三日後に控えた今日、関係者たちを招いたパーティーが行われる。

 それはここの施設内の迎賓室で行われる小規模のものだったが、財団の重役も数人出席するともなれば、当然メアリーも参加しない訳にはいかない。

 ドレスはケイオスが用意したものだ。彼がどうやって調達したのか知らないが、何故かサイズはメアリーにピッタリだった。

 そのことは深く考えないことにする。

 ただでさえ気が重いのに、これ以上頭を痛めたくない。



 その夜開かれたパーティーでは、ゲストとしてヴェクター財団関連企業の重役の他にも、一部の軍の高官や政府の官僚たちも出席していた。

 メインイベントである三日後の機動テストのプレゼンテーションが終わると、さっそくディナーを囲んでの来賓たちの談笑が始まった。

 メアリーは食事もそこそこ、ディナーの途中で化粧直しを言い訳に会場を抜け出した。

 集まったゲストの中には政府高官へゴマをする上務や、逆に次回の選挙戦のこと匂わす官僚、それとなく軍の来期予算の件を持ち出す軍高官などまでいた。

 ようはキツネとタヌキの化かしあいだ。付き合わされる方はたまったものではない。

 どこぞの高級官僚などはメアリーの容姿を褒めたあと、自分の愛人になって欲しいくらいだなどと笑えない冗談言ってきたものだから、顔を引きつらせないように軽く受け流すのには苦労した。

 あの目は、多分本気だったと思う。

「まったく……冗談じゃないわ……」

 メアリーは憤りを覚えながら、ラウンジへと足を運んだ。

「…………?」

 月明かりに照らされたラウンジに、ぼんやりと影が浮かんでいる。

 自分の他にも会場を抜け出した誰かがいたようだ。メアリーは声を掛けようと思い、はたと立ち止まってしまった。

 ラウンジにいたのは、ランだった。

 月の淡い光の下、静かにたたずむ少女の姿は、今夜のパーティーのためにかわいらしくドレスアップしているのもあって、まるで本当に子どものころ読んだ絵本に出てくるお姫様のようだった。

 彼女は何か思いつめたような表情で、ラウンジの天井越しに空を見ていた。

 最初メアリーは、ランに気づかれないうちに立ち去ろうと思った。

部屋に戻ろう――。前回もここで不用意に声を掛けて嫌われてしまったのだし、ひとりでいる彼女の邪魔をするのも気が引ける。

 しかしメアリーの足はそんな考えとは逆に動き、気がつけばランに声を掛けていた。



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