MOBILE HEROINES HYPER ALICE
―5―
「パパァ!?」 「やあ、ありす。元気そうだね」 突然の喜三郎の登場に、ありすはまたも混乱する。 「ど〜ゆ〜こと!?何がど〜なってるの!?」 ありすの問いかけに先に口を開いたのは健康用具セールスマンの方だった。 「お久しぶりデスネ……プロフェッサー鏡国……」 「ふん。組織め……。もう嗅ぎつけてきたか……」 「3年前にアナタが突然姿を消してから、ワレワレはずいぶんと探したのデスヨ……」 「3年前に組織を抜けるとき、探さないでください、と書置きを残したはずだがな……」 ふたりでだけの世界にはいった会話に、慌ててありすが割ってはいる。 「ちょっと待ってッ!ふたりは知り合いなのッ!?」 「そうだ、ありす。彼は組織の刺客だッ」 喜三郎は目の前の男を指差した。 「組織……?」 「ザッツ、ラーイトッ!!私は組織の闇のエージェント、『笑う米利堅人』ことチャーリー・オリバー!」 健康用具セールスマン改めチャーリー・オリバーが答える。 「プロフェッサー鏡国は、世界征服を狙うワレワレ組織の研究者だったのデース。ワレワレは3年前にカレが失踪した後も、密かに探し続けていマーシタ」 話し続けながら、オリバーは口元にたえず「ニィッ」とした笑いを浮かべている。 それが返って不気味であった。 「そーいうわけでプロフェッサーには組織に戻っていただきマース!そしてミス・ありす……アナタも一緒に来ていただきマース!」 「ええ――ッ!?何でなの――ッ!?」 驚くありすにさらにオリバーは続ける。 「アナタがプロフェッサー鏡国の科学力によって鋼のサイボーグ少女になったことは、すでにリサーチ済みデース。アナタは大切な研究成果なのデース」 そういってオリバーはギラリと目を輝かせた。 「さあ、ふたりとも一緒にくるデース」 オリバーがふたりに近づいてくる。 「そこの貴様ッ!それ以上のその娘に近づくなッ!!」 突然誰かの叫び声が響きわたった。 自分に向けられた大声にオリバーが歩みを止める。 「シィーット……何奴デース?」 オリバーが声のした方を振り返る。 それにつられてありすも同じ方向に目を向けた。 みなの視線の先に立っていたのは、ありすあこがれの先輩、城井貴志だ。 (センパイッ!?) 目の前の展開にありすはビックリして逃げるのも忘れてしまう。 「これ以上の学校内での乱暴狼藉は、この風紀委員2年組頭、城井貴志が許さんッ!!」 そう言いながら城井は懐から腕章を取り出すと左腕に装着する。 赤い腕章には『風紀』の二文字。 実は城井貴志はこの中学で『風紀のサムライ』と呼ばれる風紀委員だったのだ。 一陣の風が吹き、城井の額のハチマキがなびく。 「さあッ、悪党!覚悟しろッ!」 城井は背中から竹刀を抜き放ち、オリバーに突きつけた。 「ガッデーム……ッ!こしゃくな……」 その光景にありすは思わずポ〜ッとなる。 (センパイが私を助けようとしてくれてる……ッ!) こんな状況だというのに、そう考えるとありすの胸はドキドキと高鳴るのだった。 「受けてみろッ!正義の一撃を――ッ!!」 城井は竹刀を大きく振りかぶると、オリバーに斬りかかる。 「ここからいなくなれ――ッ!!そんな大人、シューセーしてやるッ!!」 風紀委員御用達の『正義の修正竹刀』が唸りをあげる。 正義の一撃がオリバーの胴を貫いた。 「手応えアリッ……!」 急所をとらえた感触に、城井は誇らしげに後ろを振り向く。 だが……。 「フッフッフッ……ボーイ、甘いデース」 オリバーは平然と答える。 急所を完璧にとらえたかにみえた竹刀の一撃は、オリバーの手に持つカバンによって防がれていた。 「そんな……俺の正義の一撃が……ッ」 必殺の一撃を防がれたショックに、城井はガックリと膝をついた。 「フッ……米利堅の力を思い知るデース」 オリバーはカバンから紐を取り出した。 「このロープはただの紐ではありまセーン。こうすれば……ッ!」 オリバーはロープを空中に投げる。 たちまちロープは城井の体に巻きついた。 ご丁寧にも最後は蝶結び。 「どーデース?このロープを使えばどんなに不器用なアナタでも、たちまち蝶結びが出来るようになりマース。イッツ、ワンダホー!」 あえなく風紀委員城井貴志も捕まってしまった。 (そんな……センパイまで捕まっちゃうなんて……) 自分を助けるために城井が捕まってしまったことに、ありすの胸は痛んだ。 「さあ、これでジャマものはすべていなくなりまシター。プロフェッサー鏡国、今のうちにエスケープしなかったのは感心デース」 オリバーの言うとおり、もう周りで立っているのはありすたちだけになっていた。 「フンッ、どうせ逃げられんのにジタバタしても仕方ないだろう」 口ヒゲを引っ張りながら、喜三郎はそう答える。 「それにさっき空から落ちてきた衝撃で、足が地面に埋まってしまって動けんしな」 「それはちょうどよかったデース。それでは今のうちに……」 そこでオリバーはぐるりと辺りを見渡す。 「このギャラリーを始末してしまいまショーカ……」 オリバーの目が残虐な光を放った。 「待ってッ!?貴方の目的は私たちでしょう!?これ以上みんなを傷つけないでッ!!」 ありすは恐怖に震えた声で叫んだ。 これ以上学校のみんなに、センパイに傷ついて欲しくない。 そんなありすの悲痛な叫びに、オリバーは冷酷に答える。 「答えは『NO』デース。目撃者は消せデース……」 オリバーはゆっくりと城井たちの方に歩いてゆく。 「おねがい……ッ、やめて……ッ」 ありすはその場に崩れふした。 怖い。 みんなが危ないのに、怖くて何も出来ない。 自分は何て無力なんだろう。 何も出来ない自分が嫌だった。 「ありす……」 涙ぐむありすに喜三郎が声をかける。 「パパァ……」 「こうなったら手はひとつしかない……」 泣きながらありすは喜三郎を見る。 ありすと違って喜三郎はしっかりと立って前を向いている。 その父の姿は自分と違って勇気と決意に満ちている……ように見えた。 まあ。 喜三郎の足は地面に埋まってるんだから、当然といえばそうなのだが……。 「パパ……どうするの?何か方法があるの?」 「ああ……」 涙と浮かべて聞くありすに、喜三郎はきっぱりと言った。 「変身だ……!お前が変身して戦うんだ、ありす!」 |
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