MOBILE HEROINES HYPER ALICE
―6―
「マジですかァ?」 喜三郎の言葉に、ありすは思わずつっこんでしまう。 (パパったら、こんなときに何言ってるの〜ッ!!) ありすは喜三郎の言葉が信じられない。 だが、喜三郎は真剣だった。 「ありす。今のお前には、人を愛する思いに反応する装置がついている。思いの力が最高潮を超えたとき、お前は無敵の戦闘形態に変身することが出来るのだ」 「そんな……変身だなんて……」 「さあ、ありす。みんなを守るにはこれしかないんだ」 「そんなの無理よぉ……だって……だって私が戦うなんて……」 ありすは思う。 こんな弱い自分が戦えるはずがない。 こんなに弱い自分がみんなを守れるはずがない。 そんなありすに、喜三郎は優しく声をかける。 「大丈夫だ、ありす……。お前ならきっと出来る……」 そういって喜三郎はありすの肩にやさしく手を置いた。 それでありすはハッと気づいた。 自分が何も出来ないと思うのは、自分に力がないからか? 違う。 出来ると思う気持ちがないからだ。 何も出来ないのではなく、何も出来ないと思い込んでいた。 出来ると信じる、そんな勇気の心こそ必要だったのだ。 ありすは立ち上がった。 さっき先生たちは生徒を守ろうとしていた。 城井センパイもみんなのために必死で戦っていた。 今度は私がみんなを守る番だ。 (だけど……) そこでまたありすは悩む。 もしここで変身したら、きっとありすがサイボーグだとみんなにばれてしまう。 (だけど……だけどあたしは……ッ) その時――ありすの耳にその声は聞こえた。 「他の生徒や先生方に手を出すな――ッ!殺すならこの城井貴志ひとりだけにしろ――ッ!!」 それは城井の叫びだった。 城井はこんなときでも自分よりも他人のことを守ろうとしているのだ。 (センパイ……ッ) その声はありすの悩みを吹き飛ばした。 (そ〜よッ!センパイがあんなにもみんなを守ろうとしてるのに、私は何をつまらないことで悩んでるの!?それに私が戦わなきゃセンパイは……ッ!!) ありすの胸の奥が熱くなる。 (まだセンパイとやっとお話しただけじゃないのッ!私もっとセンパイとお話したい、仲良くなりたいッ!仲良くなって学校帰りにセンパイとふたりっきりでロイヤル・チョコレートパフェを食べるの――ッ!!) 胸の奥から、思いがどんどんあふれてくる。 「センパイ……ッ、センパイ、センパイ、センパイッ、センパ―――イッ!!」 ありすの胸に『恋する乙女ゲージ』が出現し、そのメーターが一気に最高値を振り切った。 『恋する乙女ゲージ』がハート型の光を放つ。 あまりのまぶしい光に、その場の誰もが目を覆う。 「オーウッ、アンビリーバボーッ!いったい何デスカーッ!?」 まぶしさに思わずオリバーも立ち止まる。 「いけ――ッ、ありすッ!!」 喜三郎が叫ぶ。 「やってみるッ!」 光があふれ、ありすを包み込む。 「チェ――ンジッ、バトルフォォォ―――ムッ!!」 光が弾け、ありすの周りをハート型の空間が覆った。 その中で、ありすはバトルフォームへと変身をとげる。 制服が脱げ、素肌の上をアンダーウェアが包み込む。 光がありすの体を走り、紅い戦闘ジャケットとふっくらとしたズボンが実体化する。 両手に白いグローブがつき、足にブーツが装備される。 髪の色がピンクに変わり、青く染まった瞳に文字が表示される 『SYSTEM//ALICE…STAND BY…』 それが『OK』の二文字に変わるとともに消え、瞳に意思の光が満ちた。 光が消え去ったそこには、変身を終えたありすが降り立っていた。 いや……もうそこにいるのはただの女子中学生、鏡国ありすではない。 そこにいるのは鋼のサイボーグ少女。 その名は…… 「『サイボーグ・アリス』、ここに爆誕ッ!!」 そう高らかに宣言すると、アリスはビシッと某アニメヒロインよろしくポーズを決め、言った。 「悪い奴はアリスがタタムわよッ!」 そうして周りに向かってキュピ〜ンッとウインクする。 「ワッツッ!?バカな……こんなことワタシ聞いてまセーンッ!」 変身をとげたアリスを目の前にして、オリバーは「シェーッ」と驚きをオーバーに表現する。 周りの生徒や先生たちはあまりの出来事に、腹筋を鍛えながら口をアングリと開け声も出ない。 アリスが一歩前に出て言う。 「さあッ!ここからは貴方の相手はこの私よッ!!」 ビシッと指差されたオリバーは不敵に笑う。 「フッフッフッ……おもしろいデース。アッ・リトールだけ姿が変わったくらいでこのワタシに勝てるつもりとは『片鼻』痛いデース」 「それを言うなら『片腹』よッ!」 アリスのつっこみにも動じないオリバーに、周りの生徒たちはかたずを飲んで見守る。 「生きたまま捕らえたかったのデスが、こうなっては仕方ありまセーン」 そういってオリバーはカバンから健康用具『プニプニワッカー』を取り出した。 今までのものと違い、大きさが2倍以上ある。 「たとえ殺してしまってもパーツは回収できるデース。本日のおトクの品、今買えばナント同じものがもう1個ついてくる!『DXプニプニワッカー・オーラカリール』を受けてみるデース」 そういうとオリバーはその『DXプニプニワッカー』を構える。 いつの間にかカバンも消え、左手にも同じ健康用具が握られている。 持っているものこそ健康用具だが、それは明かな二刀流の構えだった。 「アリスッ!アリスブレードだッ!アリスブレードを使えッ!!」 「わかったわッ!」 喜三郎のアドバイスにアリスはヘッドセットについている2本のアンテナの片方をはずす。 するとその先端からビームが放出され光の剣になった。 アリスはそれを両手で構え、オリバーと向き合う。 かたや健康器具。 かたやビーム剣。 異なるエモノを構えて、ふたりは互いに相手を正面に見据える。 いつしか周囲から応援がわき起こっていた。 「がんばれーッ、先生はお前の味方だぞ、鏡国――ッ!」 体育教師が叫ぶ。 「アリスちゃーんッ、がんばって――ッ!」 女子生徒たちが声援を送る。 「何か知らないけど、いいぞ――ッ、やれやれ――ッ!」 男子生徒たちも負けずに叫ぶ。 完全なアウェイどころか、自分を応援する声などないというのに、オリバーは相変わらずニヤニヤと笑いを浮かべていた。 見ているだけで相手に威圧を与える、全く感情のこもっていない笑みだ。 だが、アリスは動じなかった。 「貴方の弱点はお見通しよッ!」 ブレードの刃でオリバーを指差しながらアリスは叫ぶ。 「アーハァン?ワタシの弱点デスカー?」 「そうよ!貴方はホントは米利堅人なんかじゃないわッ!」 そこで初めてオリバーの笑みが消える。 「何言ってるデスカーッ!?ワタシは正真正銘米利堅人デース!」 「なら、『いってきまーすッ』って言ってみてッ!」 「そんなのお安いごようデース。『いッとゥきまーすェ』……ゲェッ、しまったデス……」 「ほらッ!貴方は本当はポルトガル人よッ!!」 慌てて口を押さえたオリバーは一瞬無防備になってしまう。 「今だ――ッ!敵は隙だらけだぞ――ッ!」 城井の応援にのって、アリスは剣を振りかぶり大きく飛び上がった。 「必殺!!ラブラスラ――ッシュ!!」 アリスの剣がハート型のエネルギーとなってオリバーの体を貫いた。 「ジ―――ザスッ!!OH!NO!!売買禁デ――――――――スッ……」 断末魔を残して、爆発に飛ばされたオリバーは「キュピーンッ」と空のかなたへ消えていった。 戦いは終わったのだ。 オリバーが消えると生徒や先生たちを捕まえていた健康用具は消え去り、みんな解放された。 誰もが歓声を上げ、中には感きわまって泣き出すものもいる。 だがアリスの心中は複雑だった。 みんなを助けるためとはいえ、人前で変身してしまった。 (私がサイボーグだってみんなにばれちゃったよ〜ッ、これじゃあみんなに怖がられてもう学校に来れないよ〜ッ、センパイにも嫌われるよ〜ッ) そう思うとアリスはまた泣き出しそうになる。 だが、 「すごいぞッ!あの悪漢を華麗に討伐するなんてッ!」 城井が突然ガシッとアリスの手を握りしめてきた。 「ええ〜ッ、あの……え〜っと……」 驚いたアリスは、城井に手を握られていることに気づき「カァ〜ッ」となってしまう。 それに気づかず城井はますます手を強く握りながら興奮気味に言う。 「君は最高だッ!是非風紀委員に入って、俺と一緒に学校の平和を守らないかッ!?」 「センパイといっしょにッ!?」 アリスは赤くなりながらも、ホッと安心する。 (よかった……センパイは私のこと怖がったりしてない……私がサイボーグでもセンパイに嫌われてないよ――ッ) そう思うとアリスは嬉しくなってくるのだった。 だがアリスを待っていたのは城井だけではなかった。 「キャ――ッ、ありがとうッ!あなたのおかげよ――ッ!」 女子生徒たちが歓声を上げながら駆けつける。 「最高や――ッ!あんたは最高や――ッ!」 さらにその周りを男子生徒たちが小躍りしながら取り囲む。 たちまちアリスを中心に生徒たちの輪ができた。 「よーしッ!……先生が許可する……今から鏡国を胴上げだー……ッ!」 ようやく駆けつけた体育教師が涙をハンカチで拭きながらそう言うと、みんなでアリスの胴上げが始まった。 「あッ……う〜、ええ〜ッ!?」 急展開についていけずと惑うアリスを、みんな声を上げながら高く高く胴上げする。 「勝利のポ〜ズっと……」 困りながらも嬉しそうに笑うアリスの姿を、喜三郎はちゃっかりと写真に収めるのだった。 どうやらアリスの心配事は、杞憂に終わりそうである。 **** 翌日 「行ってきま〜すッ!!」 そういって元気にありすは自宅から飛び出した。 季節は春。天気予報によると今日もポカポカのお天気で、桜前線は今週が真っ盛り。 「ルン、ルン、ル〜ンッ♪」 そして――。 ありすの頭の陽気も春真っ盛りだった――。 |
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