MOBILE HEROINES HYPER ALICE


―4―



(も〜ッ、何で私逃げてるの〜)

城井から逃げながらありすは思う。

(せっかくセンパイとお話出来たのに何で逃げなきゃならないの〜ッ)

 全くである。

 だが、今さら止まるわけにはいかない。

「お――いッ!待てよ――ッ!保健室なら反対だぞ――ッ!」

 後ろからはその城井が追いかけて来るのだ。

「も〜ッ、何でこうなるの〜ッ」

 ありすが道行く生徒の合間を駆け抜けたとき、その悲鳴は聞こえた。

 突然聞こえた悲鳴に、ありすは思わず立ち止まる。

 声が聞こえた方を見やると、同じように悲鳴を聞きつけた登校中の生徒が集まって人だかりが出来ていた。

「何?」

 人だかりの間から前を見ようと近づくと、また声が聞こえてきた。

「嫌ですッ、やめてくださいッ」

 見ればひとりの女子生徒が、へんなおじさんに捕まっていた。

「そー言わず、どーデスカァ?とーっても便利デースッ」

「嫌ですッ、あたしそんなのいりませんッ」

 女子生徒を捕まえている男は一見すると普通だった。

 スーツにネクタイ、左手には革のカバン。

 そこまでならそこらの道行くサラリーマンと変りない。

 だが男が右手に持ち、女子生徒につき出しているものが普通ではなかった。

「あれって……トレーニング用具?」

 男が右手に持っているのは、深夜のあやしい通販番組で紹介されるような、健康腹筋トレーニング用具だったのだ。

 見れば男もその手の番組に出て来るような外国人だった。

 どうも男はそれを買わないかと、女子生徒に勧めているらしかった。

「どーデース?この『プニプニワッカー』を使えば、どんなプニプニお腹もたちどころにムキムキになりマースッ。今ならとってもお買い得デース?」

「嫌です――ッ」

「そーデスカ?ではそこのアナタ!どーデース?」

 男はそうやって次々と周りの生徒たちに健康用具を売ろうとするのだった。

(何なのこのおじさん?何で学校の中で健康用具売ってるの〜?)

 最初はおもしろがって見ていた生徒たちも、ありすと同じようにしだいにこの『あやしい深夜の健康用具セールスマン』を気味悪がって距離をとりだした。

「みなさーん。『プニプニワッカー』おススメデース」

 生徒たちの輪の中でその健康用具セールスマンは宣伝を続けるのだった。

 そこに騒ぎを聞きつけた教師たちが駆けつけてきた。

「こらァ!そこのアンタッ!学校の敷地内で何をやってるんだッ!」

 集まった教師の中から、体育教師が一歩前に出る。

「オーウッ、ティーチャーのみなさんもおひとつどーデスカァ?」

「登校中の生徒のジャマになる。セールスならほかでやりなさいッ!」

「オーウッ、それは困りマース……」

「アンタッ!困るのはこっちの方なんだよ!いいからさっさと校門から出てってくれ!」

 なお平然と居すわろうとする健康用具セールスマンに、しびれを切らした体育教師が掴みかかった。

「アーハンッ。ジャマをする人にはこーデース……ッ」

 そう言った健康用具セールスマンの目があやしく光る。

「ワタシの『プニプニワッカー』の素晴らしさを思い知るデース!」

 そう叫ぶと、健康用具セールスマンは手にした健康用具を体育教師に向かって投げた。

 宙を舞う健康用具は体育教師の体にからみつき、その動きを封じる。

「ぐおッ!?何だこれはッ!動きがとれんぞッ!?」

 体育教師は健康用具から逃れようと暴れるが、地面をのたうつだけですぐに身動きがとれなくなった。

「ハッハーッ、ワタシのジャマをするからデース」

 たちまち周囲はパニック状態になった。

 逃げようとする生徒たちに向かって、健康用具セールスマンはカバンから健康用具を取り出し投げつける。

 逃げ出した生徒や、生徒を守ろうとした先生たちが次々と健康用具によって動きを封じられていく。

「いったい何がど〜なってるの〜ッ」

 逃げ遅れたありすは、石につまづいて転んでしまう。

「おジョーさん、『プニプニワッカー』いかがデスカ……?」

 ついにありすは健康用具セールスマンに捕まってしまった。

「ああッ!あれは新学期早々4日も風邪で寝込んでいた鏡国じゃないか!?そいつは病み上がりなんだ!俺の生徒に手を出すなら、代わりに俺をやれ――ッ!」

 体育教師(教師歴10年)は叫びを上げる。

「うるさい奴デース。お望みならこうしてやるデース」

 健康用具セールスマンはパチンッと指を鳴らす。

 すると体育教師の体が勝手に動いて、腹筋トレーニングをしはじめた。

「そのまま永遠にお腹の脂肪を燃やし続けているといいデース」

 見れば周りの健康用具に捕まっている全員が、激しく腹筋を鍛えだしていた。

 誰もが自分の意思に反して動き続ける体に、苦しそうに顔をゆがませている。

「ひどいわッ!!何でこんなことするのッ!?」

 ありすは目の前の男をキッとにらんだ。

 だが、目の前の健康用具セールスマンはそんなありすの視線にも動じずに答える。

「さあ?何ででショーネ?ミス・ありす?」

「!?何で私の名前を知ってるのッ!?」

 目の前の男のセリフにありすは驚愕する。

 そのときだ。


「それはパパが説明しよ――ッ!!」


 ド――ンッ

 爆音と共に空から何かが降り立った。

 叫び声と共にありすの前に現れたのは、誰であろうありすの父、鏡国喜三郎その人だった。




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