MOBILE HEROINES HYPER ALICE


―3―



 そんなこんなでありすは今学校へと向かって走っている。

 ありすは後悔していた。

 家を出る直前までぐずぐずしていたせいで、遅刻ぎりぎりだ。

 調整をうけたありすの身体能力は、嫌になるくらい以前と変わらなかった。

「こんなことならせめて走るのくらい速くしてもらえばよかった〜」

 かくして。ありすは遅刻しないように、学校まで全力疾走のひとりマラソン大会をするはめになった。



 そうして学校へと急ぐありすの姿を、物陰からジッと観察する目があった。

 その男はありすの姿を、手元のモニターに映し出したデータに照合する。

 そしてデータが一致すると、口をやたらオーバーにニンマリとさせた。

「見つけたデ〜ス!ターゲットにまっちがいありまセ〜ン!」

 そういってポーズをとりながら高らかに笑い出す。

 どうでもいいが、いちいちオーバーリアクションな男だ。

「タダチニ作戦行動にうつりマ〜ス!」

 そう言い残すと、男は風のようにその場から消え去った。



 なんとかありすは校門前までたどり着いた。

「間に合った〜」

 校門前は始業ベル開始に遅れまいとする生徒たちであふれている。

 その光景を目にしたありすは踏み止まる。

 今日が自分にとって初めての中学校であることを思い出したのだ。

「う〜ッ、意識しちゃったら入りづらい〜」

 思わずありすは校門ワキに生えている木の陰に隠れてしまう。

 そ〜っと影から周りを見回してみる。

 たくさんの生徒たちが校舎へと向かって歩いてゆく。

 ふざけあいながら駆けていく男子生徒たち。

 おしゃべりしながらグループで歩いていく女子生徒たち。

 どこを見渡しても知らない顔であふれている。

 ありすの中にまた不安がわいてきた。

(いっぱい人がいる。みんなお友だちと一緒で楽しそう〜)

 ありすは思う。

 自分もあんな風に早く友だちと仲良く歩きたい。

(そうよ、ありす!弱気になっちゃダメ!早く教室に入ってみんなとお友だちになるの……!でも……、もし……もしよ?みんなに無視されちゃったらどうしよう……)

 ありすは木の陰で、足を一歩踏み出したり戻したりを繰り返してしまう。

 そんなありすに何人かの生徒が目を向ける。

 彼らは歩きながら横目でありすのことを不思議そうに眺めていく。

 自分に浴びせられる視線に気づいたありすは、とっさに自分の頭をバッと押さえた。

(どうしよう〜、なんかみんなこっち見てるよ〜ッ。きっとみんな私のヘッドセットが気になるんだ。サイボーグだってことがばれちゃうよ〜ッ)

 実は他の生徒たちはありすのことを、「あの娘、あんな木の陰でさっきから何してるんだろう?」と首をかしげていただけなのだが、ありすはすっかりみんな自分の頭のヘッドセットを見ているのだと勘違いしてしまった。

(いくら金属探知機やレントゲンに引っかからなくても、こんなヘッドセットつけてたらバレバレだよ〜ッ。まだ私がサイボーグだってばれてないよね?もしばれたらどうなっちゃうの〜ッ!?きっとみんな気味悪がって逃げちゃうよ〜。それどころか見世物としてどこかに売られたり、両手つかまれた宇宙人みたいに研究所に連れてかれて実験台とかにされちゃうかも!?)

 そう思うとますます木の陰に隠れてしまうありすだった。

「おい!そこの君ッ!」

「ひゃんッ!!」

 そこに突然後ろから声をかけられたものだから、ありすはバネ人形みたいに飛び上がった。

「おい!?こんなところで何してるんだ?」

 声は続けてそう尋ねてくる。

「はい……ッ、私は……あの……その……え〜っと……」

 しどろもどろに答えながらありすは後ろを振り向いた。

「……ッ!!」

 あまりのことにビックリして声が出なくなってしまう。

(城井センパイッ!!)

振り返ったその先に立っていたのは、ありすのあこがれの先輩である城井貴志その人だった。

(ど〜して城井センパイがいるの〜ッ!?)

 あこがれの先輩を前にして、ありすは完全に思考が停止してしまう。

「どーしたんだ?こんなところで道草くっていると、教室に遅刻してしまうぞ?」

パニック状態になったありすに、城井はさらに近づく。

「?お前見ない顔だな……新入生か?」

「ひゃッ……ひゃい!その……私学校来るの初めてで……あッ、入学式の日に事故で死んじゃっ……じゃなくて風邪で熱出して……それで今日が初登校で……それであのッ……」

「入学式から熱出して寝込んでたのか?そいつは災難だったな……」

「はッ……はい……」

 しどろもどろながら、ありすはなんとか懸命に答える。

 おどおどしたありすを見て城井は心配そうに声をかける。

「あまり体が本調子じゃないんなら、無理しないほうがいいぞ。なんなら、俺が保健室まで案内するが……」

「いッ……いえッ、もういいんです。あの……大丈夫ですから……」

 断りながらありすはハッと気がついた。

 自分の頭のヘッドセットの存在に。

 バッと後ろを向き、ありすはとっさに頭を抱えてヘッドセットを隠そうとする。

(忘れてた〜ッ!どうしよう、もうバッチリ見られてるよ〜ッ。センパイ絶対おかしいと思ってる!ばれてない!?サイボーグってばれてないよね……?)

 突然後ろを向いてうずくまるありすの姿を、城井は具合が悪いせいだとすっかり勘違いしてしまう。

「おいッ、どーした?気分が悪いのか?」

 城井は心配そうにありすのことをのぞきこんで来る。

「ち……違うんですッ……あの……」

「違うってそんなに頭を抱え込んでるじゃないかッ!?頭が痛いのかッ!?」

(わ〜んッ、違うの。センパイこれは違うのよ〜ッ!)

 ありすはますます頭を抱える。

 先輩から隠れるつもりがこれではまるで逆効果だ。

 頭を抱えたまま動かなくなってしまうありすを見て、城井もすっかり慌ててしまう。

「動けないくらい頭が痛むのかッ!?俺がおぶってやるから、早く保健室に行こうッ!!」

「違うんですッ、違うんです〜ッ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ〜いです〜ッ」

 ついにありすは頭を抱えたまま逃げ出した。

「あッ、おいッ!待てッ!!保健室はそっちじゃないぞ――ッ!!」

 いきなり走り出したありすを城井も追いかける。

 朝の校門前に突然悲鳴が上がったのはその時だった。




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