MOBILE HEROINES HYPER ALICE
―2―
その翌日からありすは学校へ通いだした。 たとえサイボーグになったとしても、学校には行かなくてはならない。 「え〜ん、義務教育のバカ〜」 ありすは、あまり学校には行きたくなかった。 不安だった。 サイボーグになってしまっただけでもショックなのに、入学式も含めてもう4日間も学校を休んでしまっている。 さいわい、先生には入学式の朝に熱を出して4日間寝込んでいたことになっている。 だが、もう4日も休んでしまったことにかわりはない。 とっても気まずかった。 「どうしよう。きっともうみんな仲良しグループとか作ってるかも。今さら教室に行って仲間に入れてもらえるかな?お友だちがひとりも出来なかったら悲しいよ〜」 さらにありすを不安にさせるのが、今も頭についたままのヘッドセットだ。 他のコードはすべてはずせたが、このヘッドセットだけは体の一部になっているらしく、どんなに引っ張ってみてもはずれなかった。 「ただでさえ4日間も休んでるのに、サイボーグだってばれたらどうすればいいの〜!?」 考えただけでも不安になってくる。 「せっかくの中学校生活のスタートが台無しよ。新学期早々なんて運がないの〜」 学校への道を走りながら、ありすは昨日の父との会話を思い出していた。 **** 「鋼のサイボーグとして!!」 ビシッとありすを指差しながら、喜三郎は高らかにそう宣言した。 それを聞いたありすはポカンと固まった。 一瞬、時が止まる。 しかし、その間にもありすの頭はめまぐるしく考えを巡らせていた。 (パパは今『サイボーグ』っていったの?サイボーグって、テレビとかマンガとかに出てくるアレ!?『加速しちゃう装置ッ』とか『ウィーキィィーップゥ』とか『ヘ〜ンシンッ』とかいうアレのこと!?いくらパパがマッドサイエンティストの変態さんだからってそんなこと出来るはずないわ!だいたいアレはただの高校生とかおじいちゃんとか殉職した警察官とか、悪の秘密結社にさらわれた人のはずよ!私そんなんじゃないし……ハッ!?ひょっとしてパパは『裁縫具』って言ったの……?でもそれじゃ意味不明だし……) 混乱するありすに喜三郎はもう一度言った。 「ありす、お前は鋼のサイボーグ少女になったのだ!!」 聞き間違いじゃない。 たしかに喜三郎は『サイボーグ』と言っていた。 「ええ――ッ!!」 あまりのことにありすは大声を上げる。 だが喜三郎は驚くありすを気にせず、自慢げに口ヒゲをなでながら言った。 「フッフッフッ……この鏡国喜三郎に不可能はないよ」 ありすの中で何かが音を立てて切れた。 「なんでいつもよけいなことするの〜ッ!!」 怒りにまかせてありすはベッドの脇の機械を床から引っこ抜くと、それで喜三郎を殴った。 ボカッ 「痛いッ!痛いぞ、ありすッ!」 「そんなの知らないわよ〜ッ!」 かまわずありすは喜三郎を殴り続ける。 ボカッ ボカッ ボカボカッ 殴りながらありすは思った。 普段は非力で、小学校の体力テストでもビリッ欠だった自分が、こんなにも重い機械を固定された床から引っこ抜き、しかも軽々と振り回している。 (私は本当に鋼のサイボーグ少女になっちゃったんだ……) そう思うとますます怒りがわいてくる。 ありすは手にした機械にその怒りを込めて、目の前の喜三郎にぶつけた。 「ウブッ、待ってくれ……ありす。仕方なかったんだ……お前のためにはこうするしか……グハッ」 「パパのッ……言うことなんてッ……聞かないッ……の〜ッ!!」 華麗なありすの4連コンボが決まり、喜三郎の体がながながと吹っ飛ぶ。 肩でハァハァ息をしながら、ありすはようやく手にした機械を床に下ろした。 気がつけば周りの機械はすべて壊れていて、辺りはガレキの山になっていた。 「ウッウッ……ありす、お前のためにはこうするしかなかったんだよ……」 顔じゅう血だらけの喜三郎が、ガレキの下からはい出てきた。 「どーゆーこと!?」 「さっきも言ったが、お前のあった事故は現代医学では手の施しようかないほどひどかったんだよ」 ありすはハッとなった。 そうだ。 喜三郎がいなければありすはきっと死んでいたに違いない。 現代医学では助からなかったありすを救うには、サイボーグ化するしかなかったのだ。 ありすは反省した。 「わかってくれたか?ありす」 「うん」 ありすは素直にうなずいた。 「よかった。それでは仕上げに取りかかろう」 「しあげ?」 「そうだ。そのままでは何かと不便だろう?」 なるほど。 たしかに今のままのではパワーがありすぎる。 日常生活を送るのにはパワーを調整する必要があるだろう。 ありすはそう納得する。 「それで何の調整からするの?」 「うむ。手始めにトマホークやドリルとかいろいろつけようか〜」 「ちょっと待ってッ!」 ノリノリの喜三郎をありすは止める。 「なんでドリルやトマホークなんかつける必要があるの〜ッ」 「せっかくサイボーグになったんだ。いろいろとつけたいだろう?」 当然のように喜三郎は答える。 ありすは考えた。 おかしい。 娘が死にそうになったというのに、喜三郎の目はやたら生き生きしている。 「ちょっと待って、パパッ!私を助けるには本当にサイボーグ化するしかなかったの!?」 ありすは喜三郎に詰め寄った。 確かめねばならない。 喜三郎がこんな顔をするときは、決まって何かよけいなことをしたときだ。たしか例の全自動アサガオ栽培機のときもこんな顔をしていた。 「そうだよ。お前のためにはこうするしかなかったんだ」 平然と喜三郎は言いきった。 ありすはホッと胸をなでおろした。 ひょっとしたら喜三郎のことだから、別にしなくても助かるのに、わざわざありすをサイボーグにしたのかと思った。 (いくらパパがマッドサイエンティストでも、実の娘を趣味でサイボーグ化したりしないよね……) だが、喜三郎の話はそれで終わりではなかった。 「そう。ありす、お前のためにはこうするしかなかったんだ。たしかにパパの科学技術をもってすれば、クローン技術でもナノテクでもなんでも使ってお前の体を元通りに戻すことも出来た。だが、それではまたいつ同じような事故にあうかもしれんだろう?その点、お前の体をサイバーテックによって機械化してしまえば、もうどんな車に跳ねられてもへっちゃらだ」 さらに喜三郎は続ける。 「今のお前のボディはスペース・チタニウム。ちょっとやそっとの衝撃じゃビクともしないどころか、努力と根性によって装甲値が跳ね上がる優れものだ。もちろん、表皮は人工有機細胞性で人体を完全に再現。空港の金属探知機はおろか近所の医者のレントゲン撮影でもサイボーグであることがばれることはない。シャワーを浴びれば水が玉となってはじけるツルツルお肌だ」 「さらに消化器官型有機物エネルギー吸収装置によって、普通にものが食べられるどころか毎朝快便、便秘知らず。メイン動力には最新の、感情をエネルギーに変えるエモーショナル・マナ・ジェネレイターを採用。これはある一定の感情をエネルギーに変換することで対消滅機関並みのパワーを出すことが可能で……ん?……どうした?ありす?……そんなに拳を握りしめて……?お腹でも痛いのか?おーい……?」 ブチッ…… 「パパのバァカァァァ―――ッ!!」 ありす渾身の右ストレートがヒットした喜三郎は、研究室の天井を突き破り、空のかなたへ飛んでいった。 その日の夜。ようやく帰ってきた喜三郎に、ありすがパワーを生身のときと同じに調整させたことは言うまでもない……。 |
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