MOBILE HEROINES HYPER ALICE
―1―
ありすは暗闇の中で目を覚ました。 (ここは何処……?) たしか今日は中学の入学式で、自分は学校に向かっている途中だったはずだ。 それがなぜ寝ているのだろう? まだはっきりとしない頭の中で、ありすは記憶の糸をたどる。 (今日から念願の中学生になるの……。そう、あこがれのセンパイがいる中学校に……) (???……センパイ?) そこでありすは思い出した。学校に向かう途中にセンパイに会って…… そして…… (どうしよう!私……車に轢かれちゃったんだわ!) ようやくすべてを思い出したありすは慌てた。 車に轢かれたんだから当然だ。 (どうしよう!?交通事故よ!きっと血とかいっぱい出てる!……ひょっとしたら骨折とか……まさか内臓破裂!?え〜ん、内臓破裂はやだよ〜。それじゃあセンパイと駅前のお店でロイヤル・チョコレートパフェも、スペシャル・チーズケーキも、デラックス・アップルパイも食べられないよ〜) 混乱するありすだがおかしなことに気づく。 事故にあったにしては別に体のどこも痛くないのだ。 (ひょっとして……もうとっくに病院に運ばれて手当てをうけてるの……?) おそるおそる薄目を開けて自分の手を見てみたが、別に血でドバーッと染まっていることもなければ、包帯ぐるぐる巻きになってもいなかった。 (じゃあ……実はもうとっくに死んじゃってて、幽霊になってお花畑のある川のほとりに来ちゃってるの……?) そう思い、おそるおそる自分の足を見てみたが、布団のハシからは自分の足がしっかりとはみ出ていた。 楽天的なありすは、こう結論づけることにした。 (そうか……あれは夢だったのね……) それにしてもとってもリアルな夢だった。あこがれのセンパイと同じ学校に通うということの期待と不安が、あんな夢を見せたのだろうか? (とにかく起きなくちゃ……) ありすは体を起こした。 変な夢を見たせいか、頭が少し重い。熱があるのかも、と思ってオデコを触ってみるが別になんともないようだ。 「う〜ん……、ヘッ!?」 なにげなくオデコを押さえていた手に目をやると、そこから信じられないものが生えていた。 「これって……『コード』?」 テレビの配線とかに使うようなコードが、ありすの手から生えていた。 そのコードを目でたどっていくと、ベッドの横のへんな機械につながっていた。 まるで見たこともない機械で、なにやら怪しいゲージやモニターがいっぱいついている。マンガやアニメなどに出てくるような機械だ。 さらによく見ると、ゲージの下には例のコードがたくさんついていて、それがすべてありすの体につながっていた。 「まさか……!!」 慌てて自分の頭を探ってみる。 「なっ、何これ――ッ!?」 そこには丸いヘッドセットのようなものがふたつ、生えていた。 なるほど。 だから頭が重かったんだ……なんて納得してる場合じゃない。 「なんなの――ッ!!なんで私の体にいろいろくっついてるの――ッ!?」 ありすは全く訳がわからなかった。いったい何がどうなっているのか、状況がまったく理解できない。 「気がついたようだね、ありす……」 不意に闇の中から声がした。 混乱するありすは、突然声をかけられてビクッとなる。 カチッという音がすると、部屋が明るくなった。 声の主が部屋の明かりをつけたのだ。 今まで暗くてよくわからなかったが、その部屋は無数のヘンテコな機械で埋めつくされていた。 そして、その機械のむこうにさっきの声の主がいた。 ありすは驚いた。 そこに立つ白衣を着た人が、自分のよく見知った人だったからだ。 その人物とは、 「パパァ!?」 そう、そこにいるのはまぎれもなくありすの父、鏡国喜三郎だった。 ありすはすべてを理解した。 「私に何したのッ!!」 何がどうなっているかわからないが、パパの仕業にちがいない――。 ありすはそう直感する。 「目覚めていきなりそれはないだろう、ありす」 「とぼけないで!なんで私の体に配線だらけのビデオデッキみたいにコードがいっぱいついてるの〜ッ?」 「ありす、落ち着きなさい。そうだ目覚めに紅茶でも淹れよう。ロイヤルミルクティーに、茶請けはイチゴのミルフィーユがあるぞ」 「ごまかさないでよ〜。こんなおかしなことするのはパパに決まってるの〜」 「そうだったかな?」 「そうなの!!小学生のときだって、私が夏休みの自由研究にアサガオの観察日記つけるっていったら、パパが手伝ってやるぞーっとかいって、全自動アサガオ栽培機なんか作って、背丈が10メートル以上もあるヒマワリみたいなアサガオにしちゃったんだから!」 ありすは思い出す。あのときはそんなヒジョーシキなものを提出したら先生に怒られると思って、結局友だちに観察日記を写させてもらうハメになった。 「おおッ、そんなこともあったな。あの後その機械を近所の農家にあげたら、お化けカボチャみたいな巨大スイカが採れるようになったって喜ばれたんだぞー」 「もお〜ッ、パパがからむといつもトンでもないことになるのよ〜。今度はいったいどんなよけいな事したの!?」 ありすの剣幕にさすがに負けたのか、喜三郎はマジメな顔になった。 「できれば話したくなかったんだが……。ありす、この話を聞いたお前がどれだけショックを受けるか……」 「いいからさっさと話して〜ッ!パパを親に持ったことよりもショックな事なんてないんだから〜」 「ガ〜ン……ありす、そんなこと言うなんて……パパは、パパは悲しいぞー」 「落ち込む前に早く話してよ〜!」 しぶしぶといった感じで、喜三郎は言った。 「ありす……お前は事故にあったんだよ……。三日前の入学式の朝にな……」 そうして喜三郎は語りだした。 ありすはあの朝たしかに事故にあった。 それも現代の医療技術では助かりようのない大事故だった。 本当なら死んでしまうはずだったありすを助けたのは、誰であろう鏡国喜三郎その人だった。 あの日、浮かれるありすが心配でひそかに後をつけていた喜三郎は、事故の一部始終を目撃していたのだ。 最愛の娘を目の前で失った悲しみにくれながら、それでも喜三郎はあきらめてはいなかった。 たとえ現代の医療技術がついようしなくとも、自分の卓越した科学の力なら……娘を救うことができるかもしれないと…… 「そしてお前はよみがえったのだ!!」 喜三郎は拳をグッと握りしめながら言った。 それを聞いたありすは、「ジ〜ン」となった。 (パパが私を助けてくれたんだ……!) いつもヘンな発明ばかりしていて、悩みの種だった喜三郎が自分を一生懸命救ってくれたことに、ありすは感動していた。 だが、喜三郎の次の言葉がすべてを吹き飛ばした。 「鋼のサイボーグとして!!」 |
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