特別編:
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 辺りは一面、光に包まれたような白一色。
 その向こうに見える、影法師。


 夢を見ている時、ごくまれに「ああ、これは夢なのだ。自分は夢を見ているのだ」と認識できる瞬間がある。
 俺にとって目の前に広がるその光景は、まさにそれだった。

   * * *

 始めに彼の目に映ったのは、木星の巨大な大赤斑だった――。
 あれは木星の大気が渦を巻いた、何百年も昔からある嵐なのだ。
 その嵐は人が木星を観測し始めたころからその姿を保ち続け、一説ではあと一万年以上も変らずに存在し続けるのだという。
 だとしたら、あの巨大なガスの塊に比べて人間などはまさに一時の吹いては消える、凩(こがらし)に過ぎないのではないだろうか?
 そこまで考えて、彼は自嘲気味に笑った。肝心なことは何も分からない癖に、こんなくだらないことはしっかりと憶えている。
『VX00、指定空域への到達を確認。これよりファントムによるVX00の疑似戦闘トライアルを開始します……』
 唐突に入った通信が、思考を途切らせる。彼をモニターするために、観測艇が近くの宙域を航行しているはずだった。
『聞いているのか? トライアルを開始するぞ、さっさと返事をしろっ』
 続けて入った通信は、先ほどのオペレーターとは違い苛立った男の声。それに彼は淡々と言い返す。
「さっさと始めろよ、こっちはいつでもOKだ」
 通信機ごしにも相手のムッとする声が聞こえた。が、例え相手が本国の人間だろうと彼の態度は変わりなかった。どうせ彼には関係のないことだ。
 それよりも――。HMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)を通して見える宇宙に無数の動く光点が見えた。
 その瞬間、彼の頭から無駄な思考は完全に消えた。操縦桿を素早く捻ると、彼の乗るマシン――RGX-138VX00はその機体を前方の光点へと向けて飛び立った。
 血が沸き立つ。
 頭の冷えていく感覚とは裏腹に、心のうちは戦闘の高揚感に高鳴っていた。
 VX00は設置されていた無人衛星から発進したファントム(無人攻撃機)に向かって突撃する。
 今回使用されているファントムは、本国で正式採用となっているゾロシリーズをベースにした特別性だった。まず足がない。脚部は取り外され、それ自体が巨大なブースターユニットとなっている。バックパックも交換され、増槽がいくつも取り付けされた歪なものとなっている。頭部と腕こそ辛うじて元となったZGM-005ゾロアットの面影を残すものの、どちらかというとその姿はMSというよりも大型ロケットに手を生やしたといった表現が近い。
 しかし、そんなパイロットというマシンにとって足枷となるパーツを排することで、過剰なまでに高加速を得たはずのファントムも、最新鋭の機体であるVX00の前では相手にすらならない。
 VX00は敵機の集団を見据えると、それに向かって突進。最大戦速。高速ですれ違いながら、目標をロック――発射。ビームライフル砲に撃ち抜かれ数機のファントムが爆発。残りのファントムの群れが一斉に攻撃を開始。VX00は軽やかに機体を翻しその全てを回避。
 漆黒の宇宙で数度に渡る光の交錯が行われた後には、すべてのファントムが文字通り宇宙の塵と化していた。
 ――続けて前方より、高熱源体多数接近。数20。思考型高機動ミサイルと推測。
「はっ、今日はまた一段とサービスが利いてるじゃねえかよ……」
 視界の端に表示されたBLADE――VX00に搭載された高性能戦闘コンピュータによる情報を読み取りながら、しかし彼は知らずに薄く笑いを浮かべる。
 前方の攻撃衛星から発射されたミサイルの雨がVX00に――彼に向かって猛烈な勢いで襲いかかって来ようとしていた。
 接近するミサイル群に向かって機体を直進させる。
 最大加速の大Gに弄ばれながら、眼前に迫るミサイル一機一機が、まるで獲物に襲い掛かる毒蛇の群れのように、複雑な機動を画きながら押し寄せるのが分かった。手元の通信機が「何をやっているっ!」「機体を壊す気かっ?」などと喚いていたが、無視する。
 ミサイル群向かって突撃しながら、VX00は右マニュピレータを前に突き出す。右腕フィールドジェネレータデバイスに全出力を集中。瞬間、発生した強力なフィールドが圧縮した粒子を解放。
 激突――。
 連なる閃光に、周囲が光に包まれる。


 辺りは一面、光に包まれたような白一色。
 その向こうに見える、影法師。
 無駄だと分かっていても、俺は問う。
 お前は――
 お前は誰だ――?


 閃光が晴れたのち、試験宙域の近海を観測していたモニターは暗く沈む宇宙に佇むVX-00の機影を捉える。観測艇のブリッジには、通信機から漏れる低い笑い声が聞こえ続けていた。

   * **

 彼には名前がなかった。
 宇宙歴も一世紀半が経過した地球圏に起こった新国家、ザンスカール帝国。その走狗として造り出された人為的強化を施された特殊兵、9番目の被験体。
 ノイント(第9号)――それがここでの彼の呼び名だった。



 辺りは一面、光に包まれたような白一色。
 その向こうに見える、影法師。
 無駄だと分かっていても、俺は問う。
 お前は――
 お前は誰だ――?
 閃光の果て。硝煙の向こう。
 少なくとも、俺自身の記憶にはないその少女の幻影に。
 俺は問い続けていた。



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RGX-138VX00α[G-BLADE-01ex] WAHRHEITα
Height:22.5m
Head Height:19.8m
Weight:99.8t
Generator:9,980Kw
Thrusters:1,280,000Kg
Special Equipment:BLADE system
Armaments:
PULSE LASER CIWS
SAND BARREL BLASTER
BEAM RIFLE CANNON
I-FIELD SMASHER
解説:ヴェクター財団による次世代型MSシステム開発計画の過程で開発された本機は、本来は別系統で進められていた複数のMS開発プランが統合れされる形で誕生した。(そのため各開発段階や部署によって異なる開発コードが付けられることになり、正式コードも与えられず単にVX00と呼ばれていた)
特徴として背部の四連フィン・スラスター、四連ウイング・スラスター、下腹部から突き出したスラスト・スタビライザー、両肩に取り付けられたミノフスキー・ドライブユニットによって生み出される破格的高機動・高運動性が上げられる。
同時にビームバリアシステムの採用により高い防御能力を持ち、高機動性の両立を実現したものの、反面ペイロードの大半がフィールド制御機構やプロペラントによって占められることとなり、強力な内装火器を装備できていない。
二機試作された内の一号機である本機には、BLADEシステムが実装され、そのポテンシャルを最大に引き出されていた。
反ザンズカール派勢力によって奪取され新生リアライズの戦力となってからは、その高い戦闘力でNeo-BLADEシリーズの他の機体を次々と倒していった。
しかし、シリーズ最高傑作であるユピテルとの初戦闘によって右腕を破損。続く二度目の戦いでユピテルに敗北し、火星の大地へと沈んだ。
後に量産型ヴァイスハイト、後継改良機ヴァルハイトEDが製造される。

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